熊本市手取本町:みのや 熊本うどん文化の良心が息づく銘うどん店。

shin_papa402006-06-03

最近、ラーメンづいている。
特に熊本づいている。
それは週末の行動範囲によってそうなっているのだけれど、ラーメンだけというのも切ないので今回はうどんである。


30年ほど前、熊本の高校生の間で(ボクから見るとお兄さん、お姉さんの方々)市内のうどん屋は小腹を満たす定番コースであった。京屋、三笠、少し高級路線で「すみだ」が上通、下通の人気3店舗であった。
「すみだ」は今は無い。テーブルの上にかけ放題のネギや七味がどーんと乗っていた三笠はコンサル系を強く感じる店に変わり、同様の京屋は単なるうどん店になってしまった。やはりコンサル系が少しなりとも関わっているのであろう。

ボクがみのやのことを知ったのは11年前。
職場の先輩に連れられていったのである。
最初に口にしたとき、そのうどん麺の繊細さに驚き、つゆの旨さに瞠目した。


そのみのやに行ってみた。
ほぼ4年振りである。
熊本市役所の裏、細い路地。
路地の入り口にはてんぷらのチェーン店ができている。

ドアを開けて中に入ると以前と全く変わっていない。
木造で、継ぎ足した柱や少々傾いている床やベニヤで化粧した壁や…
要するに内装に金を使っていないのである。
一杯数百円。利益はその半分としても内装を綺麗にするには相当の投資となる。それよりも原価を抑え、売価も抑えようとするその姿勢は◎である。


頼んだのは以前と同じ「肉とごぼ天を載せてください」の逸品。
ついでに稲荷寿司も頼む。
席に座ると間髪いれず昆布の佃煮が出る。唐辛子が入っており、単体で食べてもいいがうどんに投入して薬味のように使ってもいい。
いいうどん屋には必ず昆布の佃煮がある。福岡でも独自のチェーン的ビジネスモデルを創った「牧のうどん」でも供される。
大量のつゆ(すめ、だし)を作るとき使われる昆布が再利用されているのである。この店でダシをとってますよという証左でもある。

それと九州の銘香辛料である柚子胡椒。

それらを出てきた肉とごぼ天うどんに投入する。
まずはつゆをついっと。
昆布のベースに、魚系のダシが効いている。
そしてお楽しみのうどんをすする。


唇に触る麺の表面はベルベット。
ふわりとした舌触りの後に、噛もうとすると意外な粘り腰でクニュリと逃げる。
それを奥歯でコクリと噛み切る。
たまらん。
口蓋が喜ぶとはこういうことか。

ごぼ天の牛蒡はシャキシャキ。口の中に土の底力が蘇るような爽やかさ。
肉は炊き込まれてかすかに生姜のヒネリを感じる。


うまいなあ。

10年ほど前に小学館の岩本敏さんにこの店を紹介した。岩本さんはBE−PALやサライ、駱駝を次々と創刊した名編集長で、現在は更に凄みのある仕事を(偉くなって)されている怪男児である。(見ていらしたらすみません。年上の方を「男児」などと書いてしまって申し訳ないことでございます)
「今でも熊本に行くことがあったら、あのみのやに行くんですよー」と、先日お会いしたときに言っておられた。
みのやは東京(の一家言あるヒト)からも一目置かれる店なんである。


価格設定と立地はすでに高校生向けではない。
食べ手にとっては手軽でありながら、作り手の良心と技を感じるうどん。そのようなうどん文化は、もはや大通り沿いに望むべくも無い。
しかし良いものを知る大人の集う、街の深い辺りにひっそりと守られて息づいているのである。