熊本市安政町:はま屋 九州には粋な蕎麦屋がないとお嘆きの諸兄へ。

shin_papa402006-11-13

お嘆きでない諸兄へはあまり価値がない今日の情報である。

ので、お嘆きの諸兄限定でお読みいただきたい。
求道的な十割蕎麦、二八蕎麦、あるいは○○道場系の店、そして水が綺麗な田舎に旧式家屋を装飾して客を呼ぶ蕎麦屋さん。そのようなお店が意外とあるのが九州である。
味は素朴系。
エデッケ(江戸っ子)の蕎麦ッ食いを自認する諸兄には、多分得心が行かなかったろう。
それほどに九州において蕎麦は田舎風の救荒食であり、素朴に帰するものである。

想えば鎌倉時代、日本で初めて衆上がパスタの美味を知ったきっかけとなった飢饉のとき。博多商人の謝国明が皆に振舞ったのは蕎麦粉で作ったパスタであった。蕎麦掻きに近いものだったという。


そして蕎麦は蕎麦切りとして、クレープ状のものを切ってズルズル啜るものに進化する。のみならず、皮に近い部分を使用しない更科などというぜいたく品まで生み出してくる。
鬼平犯科帳を御存知だろうか。
それまではカケかモリしかなかった蕎麦に、天ぷらを載せるというコペルニクス的発明がなされた風情を描いた回がある。
当然後年の池波正太郎の創作ではあるが、食いしん坊の氏が歴史を調べあげて記したものではある。


時代は下って今。
東からやってきた諸兄は、東国で進化した蕎麦の世界を知らずに今にいたる九州の蕎麦を知って、東国を懐かしむのである。

だが待て。
その嘆きは、早い。


ぜひ熊本を訪れていただき、鶴屋百貨店の横の駕町通りを少々南へ下っていただきたい。ビルにへばりつくように小さな蕎麦屋が目に入るだろう。
昼時であればツンと質のいい醤油の匂い、そして渾然となった魚系昆布系のダシの香りが楽しめることと想う。
そしてその香りの中心に「はま屋」がある。


その日頼んだのは「天丼と盛り蕎麦のセット」。
昼時のみのセットである。
天丼は、ごま油の薫り高く揚がった海老の天ぷら。

そして肝心の蕎麦は…。
細く白い蕎麦。
箸で手繰っても切れることがない。
繊細ながら持ち重りする蕎麦を、蕎麦猪口の薫り高いつゆにつけて、ズズズ。
そうすると、口の中でピチピチの蕎麦が踊り、
噛み切る歯に対して「イヤイヤ」などと言いながら、
一本一本がぷつりっぷつりっと切れていくのである。
口の中には蕎麦の涼やかな香りがふわりふわりと広がるのである。

正直言って、熊本で、しかもこのような小さなフツーの町の蕎麦屋でこのような蕎麦が食えるとは、本当に幸せである。
東京の凡百の一般蕎麦屋に見せてやりたいくらいである。


ぜひ、お勧めである。


ただし。
おやじさんは頑固。
だから店内はたまに怒り声が飛ぶこともあるが、
そんなもの、気にせずに食えばいいのである。