東京九段下:田中 九州そのまんまの豚骨に唸る。

shin_papa402007-04-17

ボクが初めて東京に枕を移したのは24年前のこと。
旅行者として行ったことはあったけれど、住むということになると話は別だ。
最初の枕の位置、つまり寝泊りするために借りたアパートの場所は都下の東久留米だった。
東京…といえば中央線の高架から見渡すどこまでも続く屋根、銀座や池袋などの街の様子を思い浮かべていたボクは、ちょいと歩くと野火止用水がある武蔵野の街のはずれの風情に困惑していた。
郷里からの荷物をほどくのも時間が掛かる。
一人きりのその労働に疲れて、ふとラーメンが食いたくなった。

駅から13分も歩くその近くには小さな商業の集積があった。
といっても八百屋、肉屋、米屋、理容室にファッションセンターしまむら、という辺りが寄り集まっている。
その一画にラーメン屋があることを思い出した。

つっかけを履いてその店に行く。
店の中には常連さんが3人。
つけっぱなしのテレビを横目で見ながら「ラーメン1杯ください」と頼んだ。


しばらくして出てきたのは醤油ラーメン。
醤油味で醤油色のスープ。
大して美味しいと思わなかったメンマ。
茶色のスープに、黄色めの麺に、何よりほうれん草がトッピングされている不思議さ。


子供の頃から豚骨の桂花に慣れ親しんだボクである。
ラーメンといえば豚骨の香り、麻油の香り、煮卵…というのがボクのラーメン観だった。
やっと東京の大学に合格してやってきて、思いがけないところで郷里との距離感を思い知らされた。


そんなことを思い出させてくれたのは、九段下の横浜家系ラーメンの田中。
最近、しごとで九段下に泊まることが多い。
先日大学のときの同級生で、今は同業他社にいる友人と久しぶりに神保町で旧交を温めた。
彼は横浜に住んでいるのでそう遅くまでは飲めない。
10時くらいにお開きにして。
で、ふらふらとホテルへ帰ったのだけれど、東京に来たら若い頃の自分を思い出すのだろうか最後にもう一押ししたくなった。
で、ホテルの近くを見てみたら。


「横浜家系」と看板が出ている。
噂には聞いていたが、横浜家系なる系統を食ったことがなかった。
これは体験してみなくては。


ちわーと入ると、食券を買えという。
いろいろとトッピングが書いてあるが、まずはデフォルトだ。


チケットを渡してしばし待つ。
4分くらい待つと、横合いからぐいっと「おまちー」と出てきた。


まずはスープだ。
横浜…というから、関東系の玄妙なるスープのブレンドだろうか?
その割にはキレイにクリーム色+褐色系の慣れ親しんだスープの色である。
どれどれ。


…おりょ。これはボクらがフツーに博多で食っているアベレージクラスの豚骨ではないかいな。


では麺をば。
ずるずる。
うーむ。
箸で持ち上げると持ち重りがするくらいのフト麺。
玉子も練りこんであるのか、やや黄色みがかったもので食べ応えはある。
やや乱暴な表現をすると、豪腕系の麺ともいうべきか。
これは面白い。


トッピングで目立つのはチャーシューと海苔。


チャーシューは、まあ美味かった。


海苔は、東京でラーメンに入れるにしては上質のもの。
大きく器からはみ出すように入れており、迫力を演出している。


一気にずりずりと食う。
食いながら思った。
全体的には九州ラーメンそのまんまである。
あえていてば北熊(熊本の名ラーメンチェーン)のフツークラスの店の麺そのまんま。
このようなラーメン屋がその昔にあれば、ボクは故郷との遠さを思わなかったかもしれない。
その、昔と今のラーメン事情の差に、却ってボクはボクが生きてきたこの24年の時間の遠さを思ったのである。