東京大手町:某屋台 ここは深夜の新聞人のオアシス。
先月、ひょんなことから土曜日の夜を一人で東京で過ごすことになった。
しかも泊まりは神田。
土地の便がいいので愛用している安宿だが、
休日となるとひっそりしてしまうのがビジネス街の悪いところ。
夕飯を食うくらいの時間に一仕事終えて宿へ帰ってきたが、さて、行くアテはあるのか?
あるのである。
ということで行きつけの沖縄料理屋へ。
この沖縄料理屋については左下のリンク先の「味の魔大陸九州」で書いたことがあるからここでは言及しない。
さてひとしきり酔っ払ったところで、
丸の内からぶらぶらと神田方面へ歩いて帰る。
このあたり、昔は「丸の内青年倶楽部」とかでずいぶんと行き来したなぁなんて郷愁に浸りながら。
東京駅の前を離れ、
大手町の銀行街、そして新聞社街に差し掛かる。
と。
見慣れないものが見慣れないところに。
そう。
土曜深夜11時半なのに、
「ていぱーく」と「NTTコミュニケーションズ」のビルの間に、
九州モンの常識からするとやや大掛かりな屋台が出てるんである。
ほほー。
花の大江戸で屋台ですか。
途端に頭の中ではジプシー・キングスの「インスピレイション」が鳴りはじめる。
んー。分かるヒトにはわかるが、分からんヒトには分からん表現だが仕方ない。
「すみませーん、よろしいですか?」
覗いたら坊主状態だったので思わず尋ねてしまった。
痩せ型のおっちゃんが「いいっすよぉ」と返してくれる。
そこでワンカップ大関と天ぷらそばを頼む。
しばらくして出てきた。
麺は冷凍もんかな。袋もんかな。
ツユはコンクかな。
これはこれでいいんだよね。
寒い夜空に、
湯気がモワッと立つ天ぷらそば。
天ぷらは意外やしっかりとしたイカが入った満足がいくものだった。
そばと天ぷらをズズズとツユと一緒に口に啜り、
咀嚼して、
「ふわー」と上を向いて息を吹けば、
折からの寒風に吐く息が白く湯気となってかき消されていく。
その向こうには新聞社の巨大なビルが。
あるフロアは煌々と電気がついており、
でも土曜の深夜ということもあって大半は黒く夜の闇に沈んでいる。
この屋台、
近くにある日経、読売、産経などの新聞社で働く人々を相手にご商売されているということだ。
ぶらりと入ってきたブレザーの壮年の男性は読売新聞の編集の方だといっていた。
新聞はこれから受難の時代に入る。
良くも悪くもこれまで構築してきたシステムが問われる。
口幅った言い方をすれば、
新聞のユーザメリット(プロミス)は取材力と文章力と編集力と一覧性だと思う。
これまで維持し構築してきた各社のシステムがそれらを届けるのに一番適しているのか、それともしていないのか。
その4つのメリットがほかのメディアよりも優位性を持つうちに改革するべきなら手を打つということだ。
何よりそれらは万国共通で時代を超えて支持されてきているのだから。
ボクは安易なペーパーレス化ではないと思う。
なぜならばペーパーは人類が手にしている、最も大量生産できる安価で軽い、変形自在で即時性に優れる「メディアビークル」(コンテンツを伝えるための乗物)だからだ。
「ああ、きょうはこれで終わりだなぁ」と思いがけず客が少なかったことをブツブツと恨みながら店を閉めようとする親父さんに
「ごっそさん」と声をかけて店を出る。
鎌倉橋へ向かう道すがら、
やはり頭の中ではジプシー・キングスの「インスピレイション」がこだましていた。