福岡市六本松:琉球ヌードル スキッとした沖縄すば。
故あって1週間の食餌制限に入らなくてはならなくなった。
正直なところ食べることだけが人生の愉しみといってはばからないボクだ。これからの1週間は大変つらいことであろう。
さて、その1週間を迎えるための「最後の晩餐」を何にするかと迷ったんだが、その結果がここである。
九州大学のお膝元、六本松の交差点の近くにある琉球ヌードル。「Ryukyu Noodle」という看板表記もある。沖縄そば(すば)とは書いてない。そのココロは沖縄そばであって、沖縄そばを超えた麺類を目指すというところなんだろう。
沖縄そばを食べはじめて20年近くになる。最初の頃は沖縄でしか食べられないB級の食い物という位置づけだった。麺は灰汁を利用した小麦系の麺。昔から手作りでやっているそば屋(首里の「さくら」と、いったか…ばあちゃんが引退して店を閉めてしまったが)は灰汁で麺を打っていたが、テーゲー(大概≒大雑把)な沖縄のこと、早々にかん水を使ってみたりという簡便化が進んでいた。スープも鰹ダシと豚骨ダシで作られるとされていたが、こちらも一部の手作り銘店以外は化学調味料を大量に使用するスープに取って代わられていた。そういうこともあって、まだ観光客が喜んで食べに行くという状況ではなかった。
その後、沖縄ブームで取り上げられたり、さとなおさんの怪著「沖縄ヤギ地獄」で取り上げられたりして、ウチナンチュ以外の人々にも知られるようになり、沖縄のソウルフードのひとつとして定着して今に至るというわけだ。
ありがたいことに、その流れの中で沖縄のそば界にもルネッサンス(文芸復興=まず原点回帰をして見つめなおそう運動)がおこり、化調を使わないスープ、灰汁を使ったり打ち方を工夫した麺、コンセプチュアルなトッピングなど、面白い麺状況になってきているのだ。御殿山、首里そば、てんtoてん、玉屋など、観光客だけではなく地元の人気を集める銘店が出現してきたのはうれしいかぎりだ。
さて、沖縄から1000キロも離れた福岡の六本松で、まさに沖縄そばのニューウェイブを標榜する琉球ヌードル。
食べてみた感想は、前に食べたときより、よりいっそう研ぎ澄まされたという印象だ。
まず前回から器が変わった…これはどうでもいいか。
スープはあたりまえのように無化調。小さな店だからすべての席から2メートル以内の距離でスープの寸胴鍋が目に入る。褐色のうまそうなスープがうっすらと湯気を立てているのが見える。
そこから注がれたスープは意外と色が薄まり、和食の「おすまし」といってもおかしくないくらいになる。
啜ってみると…。
すっきりとした、上品な薄味のスープ。豚骨とかトリガラとか使っていると思うけれど、臭みはまったくない。その上に上品な鰹ダシが乗っている。うまいなあ。
次いで麺を。
少しヨリがかかった、それでいてエッジがシュッと立った美麺。
ずずずと啜って咀嚼する。
くくくっという感じで噛み切れる麺。透明感のあるスープと絡んで、実にうまい。
トッピングはかまぼこと水菜と豚三枚肉の煮たもの。
かまぼこは、いつもの奴がなかったのでこの日に限り一般的な和風のプリプリ蒲鉾。代用品だがこれもありかも。
水菜をのせるのはこの店のオリジナルだと思うが、上品なここのそばにはどんぴしゃ。ちなみに玉屋などネイティブ沖縄系の個性の強いそばにはヨモギをのせるのが最近の潮流である。
豚三枚肉はあめ色になるまで煮込まれたトロトロの肉。これ単体でも、できればこれをいくつもご飯の上にのせてカッコミたいくらいのうまさだ。
食餌制限前の最後の晩餐は、こうして大満足のうちに幕をおろしたのである。
翌朝、お医者さんからもらった食餌制限の注意をよく読むと。
「この期間中に食べていいもの。 玉子とうふ、絹ごしとうふ、(中略)、おかゆ、食パン、うどん…」
ん?
うどん?
えーと、どうも琉球ヌードルの素そばであれば、別にこの後の一週間も食べてよさそうなんであった。