東京都世田谷:来来軒 オレが食うタンメンはある。
もう15年くらいも前。
そのころ勤めていた東京都中央区日本橋室町(三越前)の裏道に小さなラーメン屋があった。
メニューはラーメン、チャーシューメン、タンメン、それに焼き飯だけ。
ん?
もっとあったかも知れん。
けれど昼飯どきに行くと、それ以外のものを頼むといけないような空気が流れまくっていた。
たしかその頃で、
ラーメン350円、タンメン400円くらいだったと思う。焼き飯も350円とか、とにかく安かった。
ちょうどバブルがはじけた頃のことで、昼飯どきになると10人くらい店の前に行列をつくる状況だった。店の中はカウンターだけ。8人も座ればいっぱいになる小さな店だった。
その店のタンメンがボクのタンメン初体験だった。
化調バリバリ。
だけどモヤシ、キャベツ、人参、そして緑のきぬさや。豚の細切れも一緒に炒められていて、それなりにすっきりとしたスープとともに野菜を食べられるのが嬉しかった。
秘密の県民ショーかなにかでやっていたけど、大阪からこっち、西日本にはタンメンという文化がないもんな。
でも当時そこで食べたタンメンのスッキリ加減に魅了されてしまったのだった。
ある日、いつものように並んで10分、やっと店に入ってタンメンと焼き飯を頼んだとき。
続いて入ってきたオッサンがいた。派手なダブルのスーツ。派手な化粧の姉ちゃん連れ。
「おい、脂身たっぷりの安っぽいチャーシューメンくれ。ふたつ」
店の中に、姉ちゃんに聞かせるためだろうか、自分の力のあるところを見せつけたいのだろうか、そういうだみ声が響き渡った。
っつっても小さな店だからやかましいだけなんだが。
すると、店を一人で切り盛りしている痩せた小さなじいさんが、
「うちには安っぽいチャーシューメンはありません」とキッパリ。
ボクら客はコトの成り行きとじいさんの毅然とした態度に、オタオタしながら見守るしかなかった。
だが派手派手オッサンはラーメン屋のやせこけた店主からそのような返事が返ってくるとは思わなかったんだろう、もう一度呼びかけた。
「おい、安っぽいチャーシュメンを…」
「そんなものはウチにはありません」
オッサンの声を遮るように響き渡るじいさんの声。
「なんだよ、こんな不味い店。おいっ、行くぞ」
コケにされたと思ったんだろうか、派手派手オッサンは派手ネーチャンを連れて店をふいッと出て行った。
タンメンを食べると、あのときの光景を今でも思い出す。
自分なりのスジを通すということ、ぶれないということはとても大事だ。そのようなことをそのとき目の前で起こった出来事というか、じいさんの
態度に教えてもらった。
さて、先日、世田谷で撮影があったときのこと。
世田谷線の上町駅から歩いて15分くらい。世田谷通りを歩いていたら、ここが東京農大の近くであることに気がついた。
東京農大には25年くらい前に大根踊りを見に来たことがある。いや、そのときに入っていたボクの大学の部活動の関東大会が農大であったのだった。
その農大出身のひとで、ぶれない人を知っているなあと思いながら歩いていたら、目の前にタンメン屋があった。
来来軒。
これもまたゆるぎない名前だなあ。
ということでタンメンを注文。
すっきりしたおいしいお味で御座いました。
農大が近いせいか、ボリュームも結構なもんだった。