熊本市水前寺:味千本店 うまい。うまいんだが、何だろうこの気持ち

shin_papa402009-12-30

 過日熊本に行ったとき。
 母がお世話になっている施設に立ち寄ったりしていたら例によって昼飯を食いそびれたのだった。
 その日はまた高速バスでまた移動しなくてはならなかった。なればバス停の近くで何か食べようと考えた。
 そうしてやってきた熊本県庁前。

 だが、ここまでやってきて計算違いに気がついた。
 この日は天皇誕生日。祝日である。巨大な建物で数千人が働く県庁がご近所飲食店の一大市場だとしても、さすがに休日は営業していないのだ。
 だが唯一、やっている店があった。
 それが県庁前の味千ラーメン


 ここは味千本店として、数年前までラーメン屋というよりも中華料理さんとして営業をしていた。1階がラーメン屋さん、2階が中華料理屋さんだった。店構えは明るい街の中華料理屋さんのような感じで実に入りやすい店だった

 味千ラーメンは熊本にあって、中国や韓国にもチェーン展開で進出するなど、実にユニークで堅実な企業努力を重ねておられる。そういう面の展開のみならず、「街のラーメン屋さん」によるフランチャイズチェーン各店を、ラーメンアトラクション館のような展開にするべく質の転換を図っている。
 その結果、街のラーメン屋さん的店舗は激減中である。ゆるやかなフランチャイズ(元スープ材料と麺の供給)だったのだろう嘗ては、店ごとに工夫があり旨い店とフツーの店に分かれていたことは本稿で以前に書いた。それがどの店でも同じ味で食べられるようになってきた。
 期待を裏切られないという意味では、ファミレスに行って「ハンバーグ」か「カレー」を頼んでおけばまず間違いは無いというのと同質の安心感がある。
 いや、味的にはむしろ熊本ラーメンの水準点を大きく向上させている。食えば分かる。
 だが数行前の「間違いは無い」という少し後ろ向きな気持ちをなぜ、この店は起こさせるのだろうか。


 とりあえず暖簾をくぐって店の中へ。店舗ごとに建築条件が違うからレイアウトは異なるものの、グレイの内装、キョンシー映画を思い出すような装飾。コンサル系っぽい店の若者店員のいでたちは、いつも行く黒髪店と一緒だ。
 お一人様だからカウンターに案内されて、メニューを渡された。


 たかがラーメン、されどラーメン。
 野球の名言をいろんなことに当てはめるのだが、ラーメンを創る人の情熱を知った上で申し述べさせていただくなら、やはりラーメンはワンコイン前後で考えたい。つまり500円前後。これがベーシックなラーメンが外してはならない価格帯だろう。
 ここのデフォラーメンは550円。
 まあ範囲内だ。当然それを頼んだ。さらに午後に回っていておなかが空いていたので小チャーハンもつけてもらった。プラス250円だったか、そんなもん。


 出てきた。
 焦がしニンニク由来の麻油が香る正統熊本ラーメン
 まずはスープを。
 ズズズと啜ると実にうまい。
 次に麺を。
 固さは「フツーで」と頼んだが、むかし桂花とこむらさきと3大巨頭と思われていた頃はもう少し固い麺だったと思う。いま、麺の固さをたずねるようになって、客の判断(しかし初めての店でどうやって客が固さを判断できるのだろう?)に任されるようになってから、麺の固さと旨さについての店の主張が見えなくなった気がする。
 そう思いながら麺をたぐる。まあ、うまいです。ただ、熊本ラーメンの特性だった「麦を食う」感には欠けるかな。


 食べながら、積極的にこの店に足が向かない気持ちについて考えている。
 その理由の一つがメニューにあることを、眺めていて気がついた。


 その昔、ここが街の中華料理屋さんだったりラーメン屋さんだったりした頃。社会的にもラーメントッピングは「贅沢品」というイメージがあって。客はほとんどがデフォのラーメンを頼み、食べ盛りの人は「大盛り」を、小金持だったり水商売のお姉さんを連れて行ったときには「チャーシューメン」を頼んだりしていたもんだ。
 家族で行ったときには、皆でデフォの麺を頼むが、お父さんだけビールに餃子を頼んでみたりして。
 そういう小さなことで大食いや小金持やお父さんの威厳が表現できたのだ。

 いま、この店のメニューを見ると、トッピングやスープの種類によって写真の彩りも豊かに15種類、値段はデフォの550円から、1000円超までずらりと升目状に並んでいる。デフォは目立たない。肩身が狭い感じで、そのメニューの一隅に載っている。
 そういえば昔のメニューは文字だけだった。
 いま、家族で味千に行くと、子供たちはまずチャーシューが載ったものとか、はでなものを頼みたがる。そうして子供たちは高いものを頼むことになるが、親は財布のことがあるからデフォだとか安い物を頼まざるを得ない。
 親の威厳も糞も無い。
 親であるボクはこの店の営業戦略に乗せられてしまったことにほぞを噛みながら、麺をすすることになる。
 あぁそのせいだったか、と気がついた。


 そのことに気がつきながらこの日は麺を啜り続けた。
 でも、うまいんだよなあ。


 ここ数ヶ月の景況感後退下で家庭の財布のひもはものすごく引き締まっていると聞く。だがそんな中でも売り上げを1店あたり前年比105%でのばしている他業態のチェーン店の話を聞いた。その店が伸びている理由は、家計が引き締められるのを見越して、店頭での消費心理も含めて対応を迅速に行ったからだ。
 そう考えると、おいしいだけにこの店のメニューの作り方を見直した方がいいのではないかと老婆心ながら思った。