長崎県島原市:ラーメンセンター島原駅前店 ふるさとの味を求めたら

 センターという言葉が輝いていた時代があった。

 テレビの野球中継でも、センターの選手は意外と人気があった。
 熊本育ちの僕が最初にセンターの輝きを見たのはテレビの中ではなくて、新しい総合的なバスターミナルである熊本交通センター(地上5階)が建ち上がったときだった。小学校の写生大会ではその建物を選んで描いた。青いタイルがピカピカ光っていた。

 英語でいえば「中心」「中央」である。位置的なことを示す言葉でしかないが、当時はあらゆる面白いことや新しいことがそこに集まっている、そういうイメージがセンターという言葉に感じていた。センターは新しい時代の空気が詰まったハコものだった。


 そんなセンター輝きの時代から幾星霜、いい大人になった僕は営業として長崎県内をクルマで走ったりしているのだが、先日、熊本から有明海上30キロを隔てた島原市を流していたところ、いきなり「ラーメンセンター」という看板を発見した。ラーメンセンターといえば九州ではトラック野郎が集まる、駐車場がドカーンと広い丸幸ラーメンセンターが有名だ。けれどセンターという割には、この島原のラーメンセンターは街のフツーのラーメン屋さんの風情なのである。少なくとも今の時代の諸々がここに集結している、そんな空間ではないことはイヤでも分かる。
 だからこそ、このアンバランスさを見たら入らずにいられない。


 ドアを開けて入ると、広い三和土。テーブル席が右側にあり、左側は大きめの調理場、そしてL字にそれを囲むデコラ貼りのカウンター。ま、古くからある街のラーメン屋さんの定番ですね。


 最初はデフォのラーメンを頼もうと思ったのだが、壁に貼られたメニューを見上げると「黒ラーメン」というのがある。ニンニク焦がしの麻油が加えられているらしい。


 ラーメンの仕上げに香油をたらして香りと味のニュアンスを整えるのは熊本ラーメンの特徴。昔は店ごとに工夫していた。焦がしニンニクをベースとした病み付きになるようなコクを出す麻油系。あるいはごま油の香りを前面に押し出して軽さと旨さを演出する系。最近は熊本以外でも前者の麻油を取り入れたものが流行っているようである。それがこの店にもあるというのだ。


 なれば試してみなくては。
 頼むこと5分くらい。目の前に出て来たのは、麻油といいながらあまり黒くはない美麺。

 いっただっきま〜す、とばかり最初はスープをば。
 表面にたゆとう麻油は、確かに熊本ラーメンの雰囲気を伝えるがソウルに響くほどでははない。その点はまだまだ研究途上というところ。
 ただ、基本のスープはふうわりとしていて、まろやか。博多系ではなく、また熊本系でもないところを見ると、久留米とか大牟田に近いと見た。わるかない。普段使いのラーメンとしては安心して通えるところだ。


 麺はあまり印象に残らなかった。熊本風の麻油を絡めるならば、熊本ラーメンの特徴である「麦食うぞっ!」的存在感がある麺でないと弱いのかも知れない。しかし否定的な印象も残っていないので、それはそれで美味しく食べたのだ。


 具材はチャーシューにキクラゲに煮玉子。必要にして十分な布陣。特に玉子がデフォで入っているのは熊本風である。


 食べ終わって感じたのは、熊本ラーメンの文化が域外にも伝播して行くのだなあという感慨、そして、有明海を挟んで対岸に見える熊本の街への郷愁だった。それはまさに「上野の駅へふるさとの訛を聞きに行く」という心情に他ならない。そういう気持ちになるのは想像していなかった。

 この黒ラーメン、熊本風を期待して食べると、熊本ラーメンソウルフードとしている諸兄には物足りないと思う。ただしこれはこれで一つまとまってはいるのだ。僕はこれを食べたことで熊本への郷愁と、熊本ラーメンへの欲求をかき立てられることになった。そういう食後感である。