福岡市友丘:ラーメン大連 生姜の風味が残る珠玉の町麺。

 小学生か中学生の頃の話だが。
 NHKのドラマで、お昼の時間帯にやっている銀河テレビ小説というのがあった。お昼の看板ドラマは朝やっている連続テレビ小説(「ちりとてちん」とかで有名な枠)の再放送で、そのあとに地味にやっていたドラマだった。制作費の安さがもろに感じられる作りながら、山口瞳原作の「江分利満氏の優雅な生活」など、実に渋いものをやっていた。


 その枠の郡上八幡あたりを舞台としたドラマで、都会から夢破れて帰って来た主人公が昔なじみのラーメン屋に入るくだりがあった。いろんなことが上手く行かない、そして錦を飾れずにふるさとに帰ったという気持ちが、ラーメン屋の親父さんを毒づくセリフとなって出てくる。
 「よっくもこんなまずいものを毎日毎日作ってんなあ」
 すると親父は、
 「旨かろうが不味かろうが、こっちは同じ味を毎日出すためにしっかりやってんだ」と返す。


 このシーンがなぜか30年以上も脳裏から消えずにいる。主人公の気持ちに対する親父さんの見事な切り返し。いい台本だ。そして、もう一つのことを教えてくれた。それはつまり、それぞれの町の中で、いつもの味を出すように頑張っている親父さんたちがいる。これこそがプロフェッショナルというものだということ。錦なんて飾らなくても、市井の中にプロフェッショナルがいる。


 ということで、昔から町になじんで、その町の人たちに愛されている麺を訪ねようと思ったのだ。


 その第一弾として「中華大連」を選んでみた。
 選考基準は…例によって家人がパートに出かけていて昼飯食いそびれて腹ぺこでもーどうにもこうにもならんけん15分以内で自転車で行けるところばえらんだったーい、だ。


 場所は福岡市城南区の友丘。市内の中心ではなく、また郊外というわけでもない。ずるずると住宅地が広がる一画。油山観光通りという目抜き通りに商店が軒を連ね、ダイエーヤマダ電機ユニクロが点在する。そういう町の裏通り。油山観光通りとほぼ平行して走るこの道路沿いも昔ながらの商店や居酒屋さんが並んでいる。
 そのなかにこのラーメン大連がある。



 店の姿を最初に見たときは少々たじろいだ。
 庇と店外装飾を兼ねた(多分店名入りの)テントが、大きく破れている。以前、福岡に大きな台風が来たとき(っていつだったろう)に破れたのだろうか。良く見れば、それ以外は少しくたびれたということでしかないのだけれど。


 店内はカウンター席と、テーブル席が三つばかり。本当に町の古びたラーメン屋の風情だ。とんねるずの番組でキタナトランとかに認定されたとかで、その定食セットの張り紙がある。


 「ラーメンの定食お願いします」
 昼時を外したせいで、ラーメンとご飯と餃子のセットをオーダー。
 テレビの下にあった課長島耕作の一話分読み切る前に出て来た。



 器も白っぽく、ラーメンも白っぽく、スープもフツーの感じで、見た感じ、まことに地味な面相のラーメンである。
 最初から胡椒がかけられているのは、店の方の心遣いと捉えよう。


 ではまずはスープを…。
 おっ!
 意外な濃さ、旨さだ。ちょっと塩分高めと感じるが、豚骨の滋味を引き立てる塩味で、引き際に生姜の香りがついっと残る。きっと獣臭消しの投入ブツの一つが生姜なんだろうけれど、その後口がこのスープの個性を作っている。
 うまい。


 麺は博多ラーメンとしては中太。もりもり食べられるいい麺だ。


 チャーシューは煮豚。脂身もあるが、シンプルな塩味の煮豚で、意外な厚みもあって食べ応えがある。これも箸休め、麺食いの句読点としてはなかなかいい脇役者だ。


 店の外見の凄みとも相まって、しかしこのお店が現代の競争社会の中で成り立っているというのは、ひとえにこの特徴あるラーメンがココ友丘あたりの方々に愛されているということだろう。
 そのありようも含めて、今日はいい麺を頂きました。
 ごちそうさま。