熊本市黒髪:KYOKO 県外者が住むまち黒髪の今昔を想う味。

shin_papa402007-09-28

東京で学生時代に住所を聞かれ、「実家は熊本の黒髪…」といったところ、
山の手に住む女の子に「くろかみって、素敵な地名ね」と云われたことがある。

確かに黒髪の一帯はしっとりとしたいい街だと思う。
このあたり弥生時代から人が住んでいたようで、ちょっと掘ると遺跡がごろごろ出てくるという。
そういう意味では東京の本郷の当たりに雰囲気に似ているかもしれない。


明治以降は、
国のエリート養成学校であるナンバースクールの、第五高等学校がおかれた。
夏目漱石ラフカディオ・ハーンが教鞭をとった。
池田隼人や佐藤栄作がここで学んだ。
彼らが歩いた小道がそこかしこにある、そういう街である。
昭和以降は第五高等学校の敷地を受け継いだ熊本大学や、熊本の旧制中学の草分けとなった済々黌高校、女子教育の学校である九州女学院(現ルーテル学院)が設立され、熊本の文京都市というか一大学生街を形成した。


さてバブル以降、
この国の大都市集中は一気に進行を加速させている。
それ以前の高度成長の頃までは都市住民にも自分が脱出してきた地方への記憶が明確だった。
自分が脱出してきたことと自分の現状を肯定したいという気分などが作用して、
日本の消費心情の特性である「遅れまい・外れまい・田舎と思われまい」という気分が蔓延した。
その一方で、地方(出身地としての田舎)という存在がいつも忘れられなかったというのも、事実である。

それがバブル前後から変化してきた。
都市中心の地価がいったん抑制されることなどから都市集住が見直された。
また時期的にも団塊ジュニアが社会人になり、そのジュニア×2の子供たちが生まれてくるにあたって、
地方の存在感というのは都会人の心からすっかり忘れられたものになったといってもいい。
つまり、東京のそとには田舎が広がっているが、
そこは(自分が住んでいる)東京とは関係のない場所だし、
利害が(きっと)対立する場所である…という認識。
特に東京への一極集中は度合いを強めてきている。


となると地方の大学はどうなるか?
おそらく東京から地方の大学に来る学生は、減る。
また地方から東京の大学に行きたいとする若者は増えるから、
いわゆる県外者の入学というのが減るという運命にあるのではないか。


前置きが大変長くなったが、
KYOKOに来てみて、ボクは東京で送った学生時代のことを思い出した。
きっとここは熊本の学校に進学した県外から来た大学生とかが、味覚の里帰りをしにやってくるところなんだろう。


13年も前になるか、
九州にUターン就職で帰ってきた頃。
このあたりをクルマで通りかかり「東京ラーメンKYOKO」の看板が目に入った。
それ以来気になっていたのだが、7年くらい前に黒髪に住む友人に「KYOKOのラーメン、どうよ?」と尋ねたところ芳しい返事が返ってこなかったのだった。
それでそのときは行くのを止したのだが、どうも気になる、そういう数年間を送ってきた。
そこで暖簾をくぐってみたのだが。


頼んだのはデフォルトのラーメン。
おしゃべりが好きなおばちゃんが常連さんと話しているのを聞きながら、テレビをぼんやりと眺めていると、まもなくおっちゃんが運んできてくれた。
見た目、正統醤油ラーメン。


まずはズズズとスープをすする。
癖のない、嫌味もない、スッと入ってくる醤油スープだ。
ネギの香りがスープの湯気と一緒に香るのが、
控えめな味を予感させる。


麺は?
極細の縮れ麺。
ちょっとボソボソかな。
だがスープと一緒に啜りこむとなんだか、いいぞ。
ただちょっと好みをいうとしたら、もう少し太目の多加水の玉子麺であればうれしい。
けれど、それは贅沢というものである。


上に載っている具材は、
熊本では珍しい「ナルト」。
ネギ。
チャーシュー。
菜っ葉。この菜っ葉はほうれん草と思いきや、茎に少しの辛味を感じた。
からし菜というやつであろうか?


うまいじゃん。
あの友人の反応はなんだったんだろう…と考えて、思い当たった。
あいつはコテコテの肥後っ子だった。
熊本の外で暮らしたことがない。ずっと熊本ラーメンで生きてきたやつだった。聞く相手を間違えていた。


さてここの醤油ラーメンの味は総じて「引き算」だと感じた。
喜多方から来た学生も、東京や大阪や…つまり豚骨圏以外から来た学生に8割程度の満足感を与えるベーシックな醤油ラーメン。
あとの2割はそれぞれの地域ラーメンの特色である。そこまで満足させると、その地域ラーメン以外の醤油ラーメンファンへ満足を与えられない。
そういうベーシックである。
ここはあえてベーシックにとどまり、いろいろやりたいのをここまで削ぎ落としているのではなかろうか。

さらに引き算の決定打。
デフォのラーメンが380円。
いまどき凄い値段である。
学生向けの内容かと思いきや、しっかりとした作りが感動さえ与えてくれる。
事実、ボクが食べている間に回転した客筋は学生と社会人と半々であった。


それで、モグモグしている間にこの店の将来にまで思いをいたしたのである。
豚骨ラーメン圏外の学生が、今後黒髪の街に増えていくのだろうか?
この店の存続の鍵のひとつは、それが握っているような気がする。