対馬市美津島町:対馬ふるさと伝承館 ついに「ろくべえ」にまみえる

shin_papa402008-09-18

 九州の「麺」の文化に向き合うとき、どうしても見過ごせないスピンアウト的麺文化がある。いくつかの資料を見ながら、ものすごく気になっていたのだが、地理的要因と文脈的要因とでこれまで取り上げないできた。


 しかし、ついにその麺にまみえる時が来た。
 こうなったらもう逃げる分けにはいかない。
 ということでここに取り上げるのである。


 文脈的な要因というのは、この麺料理には小麦粉もそば粉も米粉も使われていないということによる。このブログの最初、心意気を述べたところで、中世に伝来した、大量処理が可能となった最先端製粉技術によって博多人が最初に粉食文化に接したことを書いた。ここでいう粉とはそば粉であり、小麦粉のことである。だからパスタ食という切り口を得た。


 だが。
 このろくべえ、サツマイモの澱粉から作るのだ。


 (いまでいう)長崎(というエリア)にサツマイモが伝来したのは江戸時代のことだ。琉球から来たとされ、鹿児島に伝わった頃と時期を同じくする。ただでさえ平地が少なく米の収量が見込めないこの地では救荒食として大いに根付いたという。


 現在、「ろくべえ」という芋澱粉由来の「麺」が島原と対馬に残る。島原も火山灰土にまみれた傾斜地がちの土地柄、対馬は「海の中に、山しかない」と中国の古文書に書かれているくらい平地がない土地柄。農本主義の時代には相当きついところだったろう。

 対馬のろくべえは島原のそれに比して数倍の手数をかけて作る。

 聞きかじりだが、ここに作り方を書く。

 1 サツマイモを細かく砕く
 2 水に漬けて何度もふるいにかけて澱粉質をとる
 3 澱粉質を水からあげて乾燥させる
 4 粉または塊状になった澱粉質をハンバーグ状の団子にして発酵させる
 5 それを天火干しで1週間ほど乾燥させる
 6 乾燥させたものを水に漬けてもどす
 7 さらに何度も漉して澱粉の純度を上げて行く
 8 沈殿した澱粉を布に取り、水切りをする
 9 それを捏ね、団子状にしてまた乾燥させる(保存食へ)
 10 団子状の澱粉質を水でもどしてよく捏ねる
 11 そうしてできた生地を、沸騰した湯を張った鍋の上から麺押し出し機でニュルニュルと押し出す
 12 茹だったら、揚げて水分を切る


 ものすごい手数である。単に栄養を救荒食である芋からとるのであればここまでの手間はいらない。澱粉質を長期保存に耐えうるように加工するという命の要請と、さらにそのうえにおいしいもの、おいしい食感を楽しみたいという欲求があってこそ、この手数が生まれるんである。つまり、ここまでして対馬の方々は、ちゅるちゅるという麺の食感を楽しみたかったのだ。


 その先達の欲求と努力に脱帽である。


 さておアジの方は。
 予想したクセは全くない。太めのうどんのような感じ。1本の「麺」は3センチから8センチくらいだ。ちゅるちゅる、ぷるんと口の中に入ってくる。濃厚なところてんというところか。それがダシにマッチしてうまい。きっとカラダにもいい、そういうことを予想させる意外な鄙稀の麺であった。