島原市多比良:多比良港FT 船待ち時間の楽しみうどん。

shin_papa402009-01-04

 連絡船にはうどんがよく似合う。


 讃岐うどんがブームになったのは、地元のタウン誌が面白さを掘り起こしてから。
それ以前にも「うどんは讃岐だ」といわれていたが、漠然と「うまい」というイメージしかなかった。あえて言えば加ト吉が冷凍讃岐うどんを発売して、大変好評を博したのが16、7年前か。ブームのずっと前である。
 ただひとつだけ、宇高連絡船のデッキの上のうどんが「うまい」との風説があった。
 でもあくまでも風説であってそれほど特別なものではなかったとする説もある。つまり、関西から讃岐、つまり高松に帰る人々は、ひとむかし前は宇高連絡船を利用した。電車とか乗り継いだりして、最後に電車ごと連絡船に岡山側から乗り込む。さてふるさとを目前にして、デッキに立ち食いの讃岐うどんがある。そこで、ふるさとに帰ってきたということをかみ締めながら、そのうどんを啜るという体験が、うまさ伝説となって伝わっているという。
 それも今となっては宇高フェリーとなって、昔の連絡船ではなくなり、船内でのうどんの販売がなくなっていて確認することはできない。
 残念なことである。


 さて、冬場のフェリー乗り場。
 長崎の島原半島の多比良(たいら)港と熊本の長洲を結ぶ、九州のど真ん中の有明海を渡る有明フェリーの、多比良港側のフェリーターミナル。
 いつもは島原外港熊本新港を結ぶフェリーを使うのだけど、今回は同じ車のサイズで片道数百円安い有明フェリーを利用してみた。
 有明フェリーのターミナルは多比良側も長洲側も適度に小さい。どちらもいい感じの小ささ。特に長洲側のターミナルは熊本県のアートポリスに選定された建物で、現代建築のよさを感じられるものとなっている。
 この日は熊本市を午前5時半に出て、長洲港を午前6時50分に出航する多比良行きに乗り、長崎市で朝からあいさつ回り、午後1時に長崎市を出て、午後2時45分に多比良港を出航するフェリーに乗って、午後4時半には熊本市に戻るという行程。
 往路の長洲フェリーターミナルでうどんでも…と思ったけど朝早すぎてやってなかった。くそ寒くて、本当にうどんが恋しかったのだけれども。
 それで、復路の多比良フェリーターミナルで、やっとこの連絡フェリーのうどんと出会ったのであった。


 うどんコーナーには壁に短冊でメニューが。
 素うどんとか、あまり豊富ではないけどよくあるお品書き。
 そのなかのひとつに「あげかまぼこうどん」と書いてある。


 「あげかまぼごうどん」?
 そこで?となったのは、この短冊だけ、「あげ」と「かまぼこ」が二行に分かれて並列に書いてあるのだ。
 よくある蕎麦屋のメニューで、たとえば同じように短冊に書かれた「てんぷらそばうどん」というのがある。「そば」と「うどん」が下のほうで二行に分かれて書かれている。
 この場合はタネものである「てんぷら」が共通のトッピングで、「うどん」と「そば」が選べるということだ。
 さて、ではこの「あげかまぼこうどん」の場合はどうだろう。


 店のヒトに直されてもいいからいってみた。
 「あげかまぼこうどん、ください」。
 すると、返ってきたのが、
 「かまぼこうどんですね」というおばちゃんの声。


 やれやれ。「あげうどん」か「かまぼこうどん」の選択性だったのかと思って、一応念のために聞いてみた。
 「あげかまぼこうどん、ではないんですね。あげうどんと、かまぼこうどんのどちらかっちゅうことですかね」
 「あ、これはさつま揚げのことですよ」

 なるほど。揚げたかまぼこのことですか。


 で、やはりこういうターミナルのうどんだからすぐ出てくる。プラスチックの器が旅気分を盛り上げる。
 トッピングは、その揚げかまぼこ、さらにナルト。小ねぎ。シンプルだ。


 ではまずはスープを。
 ちょっと唇当たりが悪いプラスチックの器のふちに直に口をつけて啜る。
 うわっつ。熱っつ、あつ。
 ふーふー冷ましながら啜りこむと、魚系だしだが、あまーい。この甘さはなんじゃらほい。そういえば長崎の味付けは甘いと美味しんぼにも載っていたなあ。


 だが。
 目の前に、ここで使っているダシを格安でお売りしますと2ℓ入りのペットボトルが並べてある。大分県フンドーキン醤油製。味は長崎のものに合わせてあるんだろうけど、ちょっといただけない。せめて長崎の醤油の雄であるチョーコー醤油か、有明海に面した熊本は白川の河口に蔵を持つ濱田醤油とかのものを使ってくれると気分なんだけど。


 麺は工場から送られてきたヒト玉ごとに袋入りになったもの。
 それでも昔の蒸し麺と比べると格段の歯ごたえの差。悪かない。


 そして肝心のトッピング、あげかまぼこ。
 小さな座布団のような形状がキュートだ。かぶりつくとさくっと噛み切れるタイプ。この辺りのかまぼこは「とうふかまぼこ」といって、空気含有量が多い、まるで木綿豆腐のような歯ごたえのものが多いらしい。沖縄でいうカステラかまぼこのような食感。その豆腐かまぼこを作るのと同じすり身を揚げた感じだ。
 うまいじゃないの。


 スープを最後まで飲み干し、空になったプラスチックの器を戻す。

 「ごっそさん」といってカウンターを離れた。

 旅の気分だなあ。