島根県出雲市:そばの加儀 出雲族の意地か?激旨そば。

shin_papa402009-05-28

 続いて、また九州以外の麺で恐縮です。
 ……、「続いて」とはいえないほど間があいてしまったけど。


 別ブログ「ほぼ日記」で書いたとおり、このゴールデンウィークは一家を挙げて「グランドツーリング」としゃれ込んだ。


 その旅行を知った方々からは「しん○○さんのことだから、さぞや麺を食べてきたんでしょう」といわれるが、家族みんなで麺を食べたのは1回だけ。それが出雲の「そばの加儀」だった。今回の旅は「日本を創った先達たちと怨霊や妖怪をたずねる」というのがコンセプト。その最終目的地が出雲であった。

 因幡の白兎で有名な大国主。大黒さんの総本山としてのポジションも担っており、全国の出雲殿つまり縁結びの神様の頂点でもある。いいことづくめの神様なんだが、そこにはあとから意図的につくられた誤謬があり、実は大国主をあがめることにして大国主の怨霊を静めるという作為があったようなのだ。それを観察しに行ったのが出雲訪問のひとつの目的だった。


 大国主を中心とする勢力は出雲族といわれ、のちの天皇家を中心とする勢力に敗退するまでは、出雲から越と呼ばれる地域(越前越後)、さらには信州まで勢力を広げていた、日本列島の中心的「国家」だったと考えられている。それだけブイブイいわせていた出雲族のふるさとのそばである。すごいに違いない。


 さて去る5月5日のこと、出雲大社の参道と社の千木の高さに驚きながら参拝を終え、大国主と、この社を大国主に贈った(贈らざるを得なかった)当時の新興国の為政者の状況に思いをはせながらビッグな鳥居のところまで戻ってくると時間は午後1時半くらい。
 さすがに腹が空いてきた。
 それでは…と門前町を見回すと、さすがにGWである。門前のそば屋はどこも満員…どころか並んでいるのである。
 並んでまで食べるのは子供づれにはきつい。さらにこういう観光地の前のそば屋は値段の割りにおいしくないのではないかという勝手な先入観も頭をもたげてきた。
 なればと出雲市街地のそば屋を選択することにした。


 ガイドブックを広げてみると、旧市街地にネット空間でも評判のよいそば屋が2軒ある。もし1軒が休みでもそれぞれ近くだからリカバリは何とかなる、そう思ってクルマを走らせた。


 ナビに電話番号を覚えさせて案内させると、「こんな狭い路地を入っていくのか!」と驚くような道を示す。しかたなくしもた屋風の家にはさまれた狭い道を入っていくと…何と50メートルほど入った路地裏(失礼!)に「そばの加儀」と小さな看板が出ているではないか。
 横の駐車場にクルマを止めて入り口ドアから覗こうとすると、ちょうど玄関の辺りに打ち水をしようと出てきた店の方に出会ってしまった。
 「いま、大丈夫ですか?」とたずねると、笑顔で「どうぞどうぞ」と招き入れられる。クルマをきちんと指定されたところに置き、家族で入っていく。
 時間はすでに午後2時くらい。この店は地域の方がよく来る店で、観光客は多くないらしい。店が厚生大臣賞を受賞したことや雑誌に取材されたときの記事がさりげなく店内に飾られている。店全体は昔からのそば屋という雰囲気。悪くない。ほかに客はいなかったが、入るときに見た店主さんやお茶を出してくれたお姉さんの笑顔が、期待感を盛り上げる。


 5分ほどして出てきた。
 ボクはざるそばの大盛り。娘は並盛り。そして妻と息子は暖かいそば。
 その温かいそばだが、どんぶりのなかにそばが熱い蕎麦湯とともに入って出てくる。それに別添えのそばつゆを加えて自分で加減しながら食べるのである。こりゃ不思議だ。それにすればよかったと思いながらボクは自分のそばに箸をつける。


 出雲そばは二八そば。小麦粉2割、そば粉8割で打つ。そば粉は皮まで使った轢きぐるみといわれるもの。
 箸で持っただけで何かずっしりとした持ち重りを感じる。それをズズズッととすすると、色黒の面持ちからは想像できない、じわりとした甘さが口の中に広がる。つゆの甘さではない。そば粉の甘さだ。おおおっこれはすごいそばだとおののきながら、ためしにつゆをつけずに食べてみても、やはりほんのりと甘い。これはいいのぉ。
 ざるそばというと最近は妙に上品になってきて「大盛りを」と頼んでも、「ありゃ?こんだけ?」ということが多いが、ここの大盛りはどーんと盛り上がっていて、そのつやつやしたそばの存在感ともあいまって「どうだ!」という感じだ。
 こりゃええと、わしわしズルズルと食べて、もう大満足。
 家族にも大好評。お値段も(もう忘れたけど)リーズナボーであった。
 ボクらが食べ終えた頃、やはりGWの家族連れと思しきおとっつぁんが入ってきて「クルマは横の駐車場でいいんですかねえ」と聞いていた。きっと彼もナビにいわれるままあの細くて不安な路地を入ってきたんだろうなぁ。


 そしてお支払いをして駐車場へいき、クルマを出そうとしたところ、加儀のご主人が勝手口から駐車場へ出てこられ、
 「ありがとうございます」
 と頭を下げられた。
 頭を下げるべきなのはこちらのほうだ。これだけのそばを、これだけ気分よく食べさせてもらったのだ。
 「また来ます」といいながら、珍しく本気で今度はいつ来ようかなと思いながら、また細い路地へとクルマを進めたのであった。