熊本市桜町:中華園 太平燕は熊本独自?の中華料理。

shin_papa402006-09-10

太平燕と書いて「タイピーエン」と読む。
当然パソコンの変換では出てこないので、「たいへいつばめ」と打ち込む。
越冬つばめ」のようでは、ある。

僕の家では幼少の頃から夕食のメニューに出されていた。
きちんと寸胴でトリガラのスープをとり、トッピングの玉子は普通のゆで卵だったけれども、温かく、滋養あふれる逸品として食卓の主役を張っていた。


その太平燕が熊本で突出して愛されていたことを知ったのは中学生のころ。
東京で過ごした大学生の頃には熊本ラーメンとともに、熊本の食の特色のひとつとして十分に認識していたものである。
もう、20年も前の話だ。
そのころ、熊本を観光で売り出すときには太平燕もひとつのネタになるとおもっていたし、同郷のものが集まればそういう話をしていた。

先見の明があると自慢したいわけではない。
ボクと同じような世代で、同じような話をしていた人たちが熊本の社会で発言力を持ってきたことが、太平燕をフューチャーするという昨今の熊本の行政主導の動きに繋がってきたのだろう。慶賀すべきことである。


さて、熊本在住時代には家庭で作られていた太平燕が極めて美味しかったために家の外で食べることがなかった。
近年母は年老い、そのような料理を作ることが困難になってきた。
ということもあり、今回はその懐かしい味を熊本の名店で味わうことにしたのだ。


選んだ店は中華園。
バスターミナルである熊本交通センターに隣接する熊本阪神(デパート)の8階にある。


出てきたのは野菜いっぱいの健康的な麺。
麺自体は春雨で新竹製という。


透明なスープからは、ふわりとかすかにごま油の香り。
家庭で作るときには仕上げにごま油をあしらうなど、洒落たことはしていなかった。
スープの濃さは、母の味のほうが濃かった気がする。

玉子を齧る。
八角?五香粉?中華香辛料がきき、薄めの全体の味を引き締める。
野菜類はきちんと火が通り、かといってくたくたではない。
寸止めという感じ。


ずりずりと啜り、噛み、飲み込む。


ああ、おなかイッパイ。
油っけが少ないから、なんとも身体にいい感じもしてみたり。


でも何とない、ちょっとした不満足感。
それは大変幼少の頃、初めて食べたときからその度に思い返される感覚。


最近、このブログを進めるに当たってそれはそれで少しモノの本を読んだりするのだけれど、石毛直道氏の「麺の文化史」(講談社学術文庫…文庫本のクセに、何と1200円!!)に書かれていた文章で腑に落ちた。


 「日本、中国、朝鮮半島では、ハルサメはおかずとしての料理の材料としてもちい、普通は麺料理として主食的に食べることはしない」(同書より引用)


そうなのだ。
確かに熊本ではこの具沢山ハルサメスープが主食として位置づけられている。
でも幼少の頃から、どうもその食感とポジショニングに納得ができなかったのだ。
ボクだけかもしれない。
米、大麦、または小麦粉、あるいは蕎麦粉なんかが入っていないと、ボクの舌と胃袋が納得しないようなんである。
ボク的には、熊本のこういう食文化を継承し育てていただいている御関係の方々に敬意を表しながらも、どうも主食であるという点については今ひとつ釈然としていない。ただしその味は◎である。