熊本市四方寄:麦の宿 麦をかみ締める快楽に酔う。

shin_papa402007-09-24

この魔大陸日記に2回ほど取り上げた熊本市四方寄(よもぎ、と読む)のあたりの富士ラーメン。
その隣に小さなラーメン屋がある。
熊本ラーメンの怪著「熊本の人気ラーメン」(熊本日日新聞社・1993年刊)にも取り上げられていて、気になっていた店である。


なぜ気になっていながら今まで行かなかったのか。
その怪著に掲載されていた写真のラーメンの具材の、煮玉子なんだが。
単なるゆで卵でなく、熊本ラーメンのお約束の「煮」玉子になっているのは大変ボクの嗜好に合うトコなんだが。
何せ、一個の四分の一しか入っていないのである。
煮玉子はもう一度書くが大変好きな具材である。
それが半分ならともかく、四分の一しか入っていないというのは、ボク的には欲求不満になるに決まっている。
それで足が向かなかったのだ。


だがこの店には名物がラーメン以外にもあるという。
それは二重カツ丼。
単なるカツ丼ではなく、「二重」なのだという。
何が二重なのか?
先の「野菜いっぱいあんかけ皿うどん」で予想もしなかった場面に出くわしたボクは、ネーミングにはちょいとセンシティブになっている。


ラーメンか?二重カツ丼か?
いずれも旨いといううわさを聞けば、玉子の量を問題にするのはケツの穴が小さいとの謗りを免れないかも知れん。
もうこうなったらこの店のドアを開けざるを得ないではないか。


土曜の午後1時過ぎ。
ドアを開けて入ると、先客は二人。
二人ともわざわざクルマで来ているようである。
メニューを見る。
二重カツ丼、ミニ二重カツ丼…迷うなあ。


だが。
店内に漂う少し酸味を感じる麦の粉のかぐわしい匂い。
これは麺がしっかりしている店の定番の匂いである。
これでは麺を食わざるを得んな。
壁のお品書きはラーメン500円。大盛にしても580円。良心的じゃないの。
結局、ラーメンとご飯、ホルモンそれにサラダが付くAセットにした。
セットにするとラーメンが小さくなったりする店がよくあるが、ここはそうではないようである。
本当に、良心的じゃないの。


しばらくしてお待ちどぉさま…とおじさんが持ってきてくれた。
ぷうんと胡麻油の香り。
おお?
これはスープを軽めに感じるような演出か?

そう思いながらまずはレンゲでスープを。
ズズズッと。
ほー。
熊本風の濃い系の豚骨スープがベースだろうが、胡麻油で軽めの味覚に仕上げられている。


では、麺を。
箸で持ち上げてみると、小麦の白い色にうっすらとクリーム色が感じられる美麺。
しっかりした低加水の直麺である。
桂花ラーメンの麺よりも心持ち細目か。
アルデンテに茹でられた麺は、周囲を半透明にして綺麗なもんである。


啜る。
口の中に、軽めのスープ、胡麻油の香りと相俟って、麦の味がドンドコドンと入ってくる。
ああ。旨いなあ。
さすが、麦の宿という店の名前は伊達ではない。
熊本ラーメンの本道は、麺で麦の旨みを食らうことである。
熊本ラーメンの特徴といわれる焦がしニンニクも、煮玉子もその他の具材も、力強い麦の味を前面に押し出す麺に対抗するための、演出のようなものだ。
だが、ここはもしかしたら引き算から発想したのかもしれない。
麦の味はゴイゴイと前面にも出せるが、同時に繊細に醸し出すこともできる。
そういう意味で逆転の発想なのかもしれない。
ここはスープの強い味を押さえ込んで麺の麦の旨みを強調したスゴ麺。
それでも麦の旨さを追求したひとつの形であろう。
つまりここも熊本ラーメンの本道である。


ああ、ここでラーメンを食ってよかった。
そう思える麺との出会いであった。
(煮玉子の少なさは気にならなかった…というよりも、この麺を味わうには、これでよし!なのだ)


でも次は二重カツ丼も、食べてみたい。