東京西神田:揚州商人 この熱烈的なソウルを見習え!
15年くらい前、初めて海外旅行というものをした。
意外にも面白かったのは、スーパー。ボクらと同じような暮らしをしている人を対象とした商業施設がどのような文脈でもって商売をしているのか。売り場や品揃えのその微妙な違いが面白かった。ボクにとっては大きな違いだったのだが、人によってはあまり関係ないくらいの小さな差だったろう。
最初に行ったのは、バンコック、そしてプーケット。
同行した同業者パッポン堂(仮名)の中ちゃんは、ボクがスーパーマーケットばかり入りたがるから往生していた。ボクといえば、世界中で標準化しているはずの消費文化とスーパーの配置が、国や文化によってこれほどまでに違うというのが面白くて、つい入らざるを得なかったのだ。しかたないね。
そして最後に、タイを去るドン・ムアン空港。そこで目にしたもの。それはその数年後に新婚旅行で妻とともに目にした光景と繋がるのだけれど。
それはあの手この手で財布の中に残った自国通貨をこれでもかと10円単位くらいまで使い尽くさせるという政府と商人たちの情熱だ。
ドン・ムアン空港でも、ヒースロー空港でも、パリ郊外の空港でも。例えばチョコレートやマルティニの大小のボトルに形を変えて、自国通貨を使い尽くさせようという魂胆丸出しで「土産物」「スーベニール」を押し付けようとする。
日本のほとんどの地域では、それと比べると全く何もしていないに等しい。このがめつさ、どん欲さこそが地方に「足りない」と突きつけられているもの、そのものである。地方だけではない、日本の文化そのものに突きつけられているといってもいい。
さて、そういうことを考えながら、揚州商人に行くと、ものすごいインスピレーションを受ける。
まず、この店で働いているのは中国からの留学生かビザ入国者だ。会話、しぐさにネイティブの本物感がある。
けれど一時期の大陸系バイトに見られるようにスキル不足は目につかない。ありがたい限りである。
この店はチェーン店だ。いうなればこのオペレーションと麺新作は、マニュアルに沿って中央本部の計算のもとに出されている。中国人留学生を使うのは本物感を出しながらも低コストオペレーションを実現しているだろう。さらに中国からの留学生の経済的支えにもなっているだろう。また新作麺の研究は、ゴマンとある中国各地の麺を参考にして進めることができるだろう。
まさに中国そのものを商売のネタにしてボクらの財布の中から少しでもお金をせしめて行こうという、いわば中国の食の「ディズニーランド」みたいな存在なのだ。
そういうチェーン店の術中にハマってはいけない、そう考えながらも先日またついつい訪れてしまった。
そして…。
またハマってしまいました。
頼んだのは黒酢湯麺。
いや、こちらも悪いのだ。黒酢というと、ついついカラダにいいものと考えしまう。不断の不摂生を考えると、ここらで黒酢などをズズズイーッと体内に送り込んで帳尻を合わせるのもいい、そう考えてしまうんである。
5分ほどたって。
「オマチドー」と、ちょっと抑揚が違うことばとともに、目の前に運ばれてきたとたんに酸っぱい香りがボクの鼻孔をくすぐる。
こりゃ健康的だ…。
てか、夜中12時過ぎにラーメン食うのはどうなのよ…という問題が頭をかすめる。
でも、まあ仕方がない。(何が仕方がないんだか。)
さておアジの方は。
スープは黒酢の味と香りをなるべく崩さないように組み上げたもの。いいじゃないの。
麺を箸ですくうとキクラゲや細切り筍が一緒についてくる。
しゃきりとした歯ごたえ、くりくりとした歯ごたえが旨い。
全体的に、よかじゃなかですか。
いろんな食べ物を食べられる自由な社会は素晴らしい。その夜の不摂生は置いておいて、とりあえずそういうことです。