長崎県長崎市:飛龍園 駅前食堂の鶏系ちゃんぽん。

shin_papa402009-06-13

 長崎駅前に店頭ディスプレイがひときわ異彩を放つちゃんぽん屋がある。
 店は四つ角の一隅を占める場所に建つ。その通りに面した二つの壁面(?)に、それぞれ7つも8つもちゃんぽんや皿うどん蝋細工(いまは樹脂製だが)が飾ってあるのだが、こいつが本当にでかい。器が洗面器、いや、たらいほどもあるといえばご理解いただけようか。
 これはきっとものすごい満足感が得られる店であるに違いない、そう思わせる迫力なんである。
 ところでこの店、店内が見えないようになっている。
 ある意味、賭けポーカーゲームの店(違法です)や昔懐かしい○○本屋(新宿歌舞伎町のそのような店も違法でしたが現在は殆ど残っていないようです)のような雰囲気さえ漂わす。怪しさ爆発なんだが、それを絶妙なバランスで巨大なちゃんぽんや皿うどんが笑いの方向へ導いている。でもそうしてもやっぱり怪しさ爆発である。
 その怪しさに負けて、なかなか足を踏み入れてみることができなかったのだ。


 昨日、営業回りをしていて、お昼時間にちょうど駅前を通ることとなった。この絶妙なタイミングにこの店の前を通るということがなかなかない。今この店に入らなかったら一生入らんかも知れん。そう思って入ってみることにした。


 外は明るくても店内は薄暗い。特に陽光あふれる初夏の時期にはその差がでかい。店内は蛍光灯に照らされて決して暗くは無いのだが、壁面の殆どがなぜか塞がれているため、そういう感じがする。


 狭い店内にやたらとテーブルが詰め込まれている。テーブルの間も広いとはいえず、テーブルとイスの間の広さも限られている。おでぶちゃん向けの店ではない。

 そういうテーブルのひとつに案内され、座る。間髪入れずに
 「上ちゃんぽん、ください」
 とお願いした。メニューによると、フツーのちゃんぽんは600円、上ちゃんぽんは650円、特製ちゃんぽんは800円だ。前回決めたレギュレーションにはぴったりだ。


 10分近く待ったか。上ちゃんぽんが出てきた。


 まず目を引くのは上に並べられたゆで卵のスライス。別に突飛なモンではないが、トッピングに茹で卵のスライスが放射状に並べられているつーのは初めてだ。


 具材はさすがに「上」なだけあって茹で海老がころころ。それに基本具材としてキャベツ、もやし。それに、この切り方はここの特色だと思うがものすごく小さく細切れにされて混入されているゲソ、豚肉、キクラゲ、それにピンクのかまぼこ。


 ではまずスープをレンゲで啜ってみる。
 ずずずっと。
 ん?
 味が薄めなのか、口の中の、なんというか、口福感がどうも物足りない感じ。スープ自体は鶏系をベースにしていると思う。


 麺は?
 箸で下のほうから手繰りだしてみると、これが結構個性的。断面が楕円状のもので、よくスープを吸うようだ。いい感じでもぐもぐできる。


 野菜はくたくたに炒め煮された状態。それを麺と一緒にずるずる食う。すると確かにイカゲソや豚肉の香りがするものの、細切れなため食感にそれらの存在を感じられない。どうにも妙な感じなのだ。
うまいまずいで言えば、決してまずかない。でも…。
 何か大事なものをかみ締めているというカタルシスがないというか。
 ぼんやりとした欠乏感にとらわれながら、そして何かカタルシスを満たすものがあるだろうと期待しながら、結局最後はどんぶりに口をつけてスープを最後まで飲み干してしまったんだが。


 欠乏感の原因のひとつはスープだと思う。実に不思議なスープなのだ。口に含んでいるうちは薄いながらも塩気があり、また鶏系の旨味も感じている。だけど飲み干した途端に印象がなくなるのだ。残り香ということばがあるが、残り味というか、そういうものだ。たいていの食べ物には味の余韻が口の中に残り、しばらく口福感を楽しむことができる。この、味の余韻がまったく無い。


 最後に思ったのは、
 「店外のディスプレイの濃さと比べて、真反対の味の印象の薄さ」
 このことであった。
 この異次元感を体験してみたい人にはぴったりのお店である。