熊本市坪井:大金豚 熊本人のソウルをくすぐる銘麺だ。

shin_papa402008-06-29

 雨の中、腹を空かせて上林町を歩いていた。上林町といっても最近は誰も知らないかなあ。上通りから広町へ抜ける道のことだ。並木坂とか、最近は自称しているけれど上林町という由緒ある名前を知っているボクとしては、並木というコトバはちょっとあざとい感じがする。上林町は、このさい、熊本弁丸出しの発音で「カンバヤシマチ」と呼ぶのが気分だ。


 なんて斜に構えたことを考えながら歩いていると、熊本電鉄(これもキクッデンシャと呼ぶのがキブン)の藤崎宮駅の裏にラーメン屋さん発見。…というか、床屋さんから
 「藤崎宮のあたりにつけ麺屋ができて、うまかっですヨ」
 と、教えてもらっていたので、そこにたどりついたという分けなんだが。


 時分は土曜日の午後0時半。雨が降っているので客は少ないのじゃないかと思いながら引き戸を開ける。…繁華街からはちょっと外れているが、それでこの天気なのに9割の入り。結構すごい店かも知れん。


 つけ麺が旨いという噂だったので、デフォはつけ麺だろうと、「金豚つけ麺ください」と頼むと、
 「冷や盛りにしますか?熱盛りにしますか?」
 あつもり…?ここは平家物語館か?などとぼけている時間はなさそうだった。
 「ひ、冷や盛りで」。
 頼んだ後でメニューをよく見ていると、「ご飯 2杯目から100円」と書いてある。だが肝心の「ご飯1杯目」についてはメニューのどこを見ても書いてない。きょろきょろしていると目の前に「麺ものを頼むと小ご飯サービス」と書いてあるではないか。なれば頼んでみなくては。


 5分ほどして、小ご飯とつけ麺の汁椀が出される。
 ご飯の上に載せるもの…とカウンターの上を見れば、まず「辛子高菜」が見える。ほほー博多ラーメンからのアイディア拝領かなあと思いながらちっちゃなトングでご飯の上に載せると、おおおお、なつかしい香しさではないか。
 熊本モンは、博多の「辛子高菜」を食べるにつけ、少々物足りない気持ちを持つ。炒めてないからである。阿蘇高菜による高菜先進地熊本では、高菜は生のものに醤油をすこーし落として食べるか、炒めて食べるんである。炒めたものに唐辛子を強めに入れることもやっていた。しかるに博多の高菜は生の高菜に唐辛子が絡まっているだけなのである。熊本人からすると香ばしさとコクが足りない。だが熊本人が求めてやまない炒め辛子高菜が、この店にある。しかも取り放題だ。これは熊本人のソウルを強烈に揺さぶる副食の登場である。


 そしてさらに。ふりかけ発見。それも全国に流通するノリタマじゃないぞ。何を隠そう、熊本は日本におけるふりかけの発祥の地である。その栄誉ある史上初の商品がフタバ食品の「ご飯の友」だ。国民、特に子供たちの栄養を改善するために発明されたという曰くつきの逸品だ。この「ご飯の友」もかけ放題。なんとまあ、麺にたどり着く前に熊本人のソウルフードをこれでもかと繰り出してくるこの豪腕に、恐れ入った。


 遅れて麺登場。冷水でググッと締められた4ミリ幅の平麺。多加水系か。どんぶりにむんずと入れられた量を見て一瞬おののく。博多ラーメンと比べて、熊本ラーメンは麺の小麦を味わうのが身上。替え玉不要というのが熊本ラーメンの常道である。そこへきても300gの量は半端ではない。だがここはその上に450gという大盛りがある。さらに替え玉もあったりする。もう、どんだけ食わせる気か?というか、この麺の物量作戦は熊本ラーメンの骨頂かも知れん。


 その平麺をむんずと箸で掴んでざぶんと汁に浸す。そしておもむろに頬張る。まずは汁の旨味が口の中に広がる。とろみを感じるような濃厚な豚骨ダシなんだが、醤油風味の方が勝っている。しかも汁の上にどんと載せられた魚粉の香りが強烈に広がる。豚骨の旨味の中へ内向して行きがちだった熊本ラーメンに、新たな平地を開いた銘スープかも知れんというぐらい、旨い。


 麺も、噛み締め感が強い。噛んで行くとサクサクサクッと麺を歯がちぎって行く感覚がある。なるほど、こういう小麦の味わい方があったのだ。これも、すごいぞ。


 あと何口かで麺が終わるというとき、麺でスープ器の下をさらうようにしたところ、また別の驚きの味覚が。柚子皮だろうか、陳皮だろうか。柑橘の香りがやおら口の中に広がる。
 ううむ。これは麺の量といい、豚骨の凄みといい、そしてサイドディッシュの炒め辛子高菜とご飯の友といい、熊本人のココロわしづかみなんではないか。


 そして最後。残った汁をスープ割りしてくれるという。お願いして器を差し出す。つけ麺の場合、得てして多いのはそば湯のように元スープを出してくれるというやり方だが、ここは一度汁碗を差し出す。スタッフがスープを残った汁に足してくれるのだ。なんだか福岡市・西新の未羅来留亭や春日市・末広軒の「替え玉」のときと同じような丁寧さを感じる。…と、出てきたスープ割りにまたまたびっくり。タマネギのミジン切り、ネギ、それに短冊に切ったチャーシューが追加され、さらに新たに魚粉が盛られている。
 もう、ここまでされたら熊本人としては脱帽である。まいりました。
 でもおいしかったぞ、本当に。